「石川賢マンガ大全」 感想
デビュー作『それゆけコンバット』から絶筆となった『戦国忍法秘録 五右衛門』まで、
漫画家・石川賢の全ての軌跡を記した完全ガイド「石川賢マンガ大全」が発売。
というわけで「ゲッターロボ大全」「魔神全書」などなどの
値段の高さに見合った内容に定評のある一連のシリーズより
久々の刊行となった本書「石川賢マンガ大全」の最大の魅力はその圧巻の情報量。
まるで石川先生の作画みたいだぁ……と思ってしまうくらいに
全ページびっしりと書かれた作品紹介やインタビューは
A5サイズの書籍が一回り小さく見えてしまうほどで読みごたえ抜群。
A5版で200ページちょいの本が3000円はちょっと高いなあ、と思っていましたが
一種の事典や大百科だと思えば妥当かもしれないですね。
まあマニア向けに足下見られてる感はありますが。
そんな本書の中心となっているのは
細かな読み切りや四コマまで含めた石川先生が手掛けた全ての作品の完全紹介。
石川作品は2000年前後に双葉社や講談社から精力的に選集や文庫版が出ており
自分はその頃に刊行された作品については押さえることが出来ていたんですが
それでも知らない作品がこんなにたくさん、という驚きがありますね。
そして個人的に興味深かったのが詳細が不明だった作品の扱い。
自分の中での石川賢先生の作品リストは「真ゲッターロボ総集編 vol.2」に収録された
2000年時点のものが最新だったんですが
そのリストで「データ不詳」とされていたいくつかの作品についても
本書では初出の雑誌が明らかになっていたり作品カットが載っていたりするんですよ。
この20年で明らかになった新事実がある、というのも
感慨深いというか何て言うかすごいですね。
また本書から感じられるのは「石川先生の魅力はゲッターだけじゃねえぜ!」という姿勢。
数年前に刊行された画集「石川賢画集 Collected Paintings KEN」のように
代表作であるゲッターロボをドーンと表紙に載せて
中身もゲッターを中心とした構成、とすることも出来たと思うんですが
本書はあえてそこからちょっと外した感じがするんですね。
本書は石川賢作品を大きく6つのジャンルに分けて紹介しているんですが
その中でゲッターを1番ではなく2番目に置いているのも意図的なものだと思いますし
「ゲッターとその他」という形にはしたくなかったんじゃないかと思うんですよ。
あ、自分としては表紙よりも裏表紙の虎のほうが好きですね。
まるで「虚無戦記」の8巻が出たかのような装丁に涙が出てきます。
オレは! 5000光年先よりこの宇宙になぐりこんできた 虎だ!
そしてインタビュー記事は本書のために録り下ろされたものから
過去の対談やエッセイ、雑誌コメント的なものまでこちらも非常に充実した内容。
特に「電撃ホビマガ」に掲載された寺田克也氏との対談があったのが嬉しかったですね。
この頃は『完全勝利ダイテイオー』目当てに「ホビマガ」を購読していたので
この対談記事には覚えがあるんですよ。いやー懐かしい。
あと単純に『禍』が大好きなんですよ自分。
デジタルも駆使して描かれた禍曼陀羅や牛魔王復活後の展開がもうたまらないです。
石川賢作品でも三本の指に入るくらい好きですね。
あとの二本は『ゲッターロボ號』と『神州纐纈城』でしょうか。
また漫画家仲間や編集者だけでなく
マネージャーやご家族といったこの手の本ではなかなか出てこない方々からの寄稿もあり
「漫画家としての石川先生」のみならずありとあらゆる角度から
「石川先生の人となり」を知ることが出来るようになっているのも印象的。
『DEVOLUTION』の清水×下口コンビ、『偽書』の西川氏、『飛焔』の津島氏といった
ゲッターに挑戦した作家さんたちからのトリビュート原稿も嬉しいですね。
他にも恐竜になったゲッターや麻雀をするゲッターがいた気がしましたが……
そのあたりは大人の事情でしょうか。
個人的には『牌』の後半は回想に回想を重ねるような展開が続いて
ちょっと分かりにくくなっちゃったのが残念でしたが
「地球での淘汰を勝ち抜いて宇宙に殴り込みだ!」な感じのラストは
非常に好きだったりします。
物語にしっかりとケリをつける形で終わらせた『DEVOLUTION』とは対照的でしたね。
というわけで圧倒的な情報量と編纂に携わった人たちの気合を感じられる本書は
間違いなくファン必携ではあるんですが
現在放送中のアニメ『ゲッターロボ アーク』で初めて石川作品に興味を持った人が手に取る
(この時期に刊行されたのはそういう意図もあると思うんですが)には
正直なところ値段も含めてなかなか厳しい本だとは思うんですよ。
多くの作品がラストまでネタバレ上等、
作品によってはその後の描き下ろしや他作品とのリンクまで解説されていて
それは『アーク』も例外ではありませんし
何よりも本書で紹介されている作品の多くが単行本未収録、
あるいは絶版で入手困難というのが
非常にネックになってしまっているのではないでしょうか。
自分のように「とりあえず代表作は押さえてるし……」くらいでは
圧倒的な情報量にめまいがしてくる部分もありますし
せっかく知らない作品を知ることが出来たのに
読めないというもどかしさは如何ともしがたいのです。
こうなると未収録短編集や全集的なものが是非とも欲しくなってくるんですが
本書の奥付に「著作権者と連絡が付かないので一報がほしい」的な
文面があることを考えても
現状では刊行が難しい作品とかもあるんだろうなあ、と。