R・C・ウィルスン 「時間封鎖 上巻」 感想
ある夜を境に、空から星々が消えた。
惑星全体が界面に覆われ、界面内の時間の流れが1億分の1にまで遅くなる
時間封鎖<スピン>現象が、突如として地球を襲ったのだ。
その時間の暴走はまた、太陽が赤色巨星化して寿命を迎える数十億年後が
地球時間において数十年後に迫っていることをも意味していた。
突如突きつけられた滅亡に人々は嘆き、そして足掻こうとする。
タイラー、ジェイスン、ダイアンの三人の少年少女。
彼らもまた時間封鎖<スピン>によって運命を大きく変えられた「最後の世代」であった…。
背表紙の解説文いわく「ゼロ年代最高の本格SF」。
正直「ゼロ年代」という言葉とか区切り方とかがあんまり好きじゃないから
煽り文で少し敬遠してた部分もあったんだけど
敬遠してたのを少しばかり後悔。
地球全体が幕に覆われて時間の流れが変質する、
という設定だけを見るとかなり論理武装的な作品に思えてしまうんだけど
本作は科学的な理論や説明の描写がかなり平易に抑えられており、
SF小説というよりもタイラー、ジェイスン、ダイアンの三人を中心とした
青春小説の様相が非常に強い感じ。
更に過去と未来が交互に描写されるミステリ的な部分、
(構成としては「火の鳥」の復活編がかなり近いかも)
政府のエージェントらしき人物から逃げ回るというサスペンス的な部分、
そしてもちろんSF的な部分もしっかりとツボを押さえた形で入っている。
「西暦4*10^9年」って語だけでわくわくするわ。
いやあ本当に面白かった。
あらゆるジャンルの小説が融合したまさに総合エンターテイメント。
なんかベタ褒め過ぎる気もするけど個人的大ヒット。
著者のR・C・ウィルスン、訳者の茂木健はどうやら両氏とも熱心なジャズ・ファンらしく、
作中に登場する曲名については既に下巻の解説文で指摘されているけれど
確かに「出しゃばりの邪魔者」を「アメリカ南部版オノ・ヨーコ」と比喩するところ(133P)
なんかは古典SFでは当然出てこない、まさにゼロ年代ならではの表現だよなあ、
なんてことも思ったり。
うーん嫌いなのに使ってしまった「ゼロ年代」。
何はともあれ下巻に続く。
下巻の感想はこちら。
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