約10年に亘る長期連載となりドラマ化のほか、
作中に出てきた店を紹介するファンブックが出版されるなど
メディアミックス展開も充実していた『食の軍師』の最終巻となる第8巻。
というわけでとうとう最終回を迎えることになった『食の軍師』ですが
今回も1冊を1つのテーマで、という構成は変わらず
最後のエピソードも力石との対決こそあれど「これで終わり」な雰囲気は皆無、
巻末の後書きや挨拶文なども一切なしだったので
言われないと最終巻とは分からないような終わり方だなあ、というのが第一印象でしたね。
泉昌之作品には珍しい長期連載だったので
しっかりとしたオチが欲しかったのが正直なところなんですが
この尻切れ感も「らしい」と言えば「らしい」のかなあ、とも思います。
そんなふうに「これで終わり?」とちょっとばかりモヤモヤしたものがある最終巻ですが
テーマは「昼食」ということで6巻の「食堂」や7巻の「朝食」に続いて
相変わらず酒を提供する食堂っぽい店が中心の展開。
さすがにこのあたりは2番煎じ、3番煎じが過ぎる気がしますね。
とは言え銀座の寿司屋、赤坂の御膳など
「普通は行けない高級店を安価な平日ランチで」というコンセプトのエピソードがあったり
ホットケーキやソースカツ丼といったいかにも昼食らしいメニューも登場、と
5巻~7巻辺りと比べると話のバリエーションが豊富になっている感じはしますね。
ラストの力石との戦いも舞台がパン屋、というのは意外でしたし
「飲み屋ばっかりじゃねえか!」という不満は前巻、前々巻ほどには感じないです。
そして「ギャグが寒いマンネリなオチ」が続いていた中で
本郷が小さなデパートのレストランで羽目を外す「本川越の昼食」のオチは非常に秀逸。
このエピソードでは本郷と力石が直接会話をしたり一緒に食べたりすることはなく
食事をしながら一喜一憂する本郷を
「いつも一人でユカイな男だ」とチラ見する力石の姿がオチになっているんですが
この雰囲気がすごい良かったんですよ。
最終巻にしてようやく「理想的な本郷と力石の関係」が見られた気がします。
そうそうこういうのでいいんだよ。
別に二人が直接対決する必要はないし
を食事が楽しめなくなるほど力石のことを意識する必要もないんだよ。
というわけで最後の最後でようやく「酒ばっかりだなあ」という雰囲気から脱却し
ちょっと持ち直してきた感はありますが
長期連載にしてはあっさりと余韻もなく終わってしまった『食の軍師』。
1巻で1つのテーマを、というのは「1冊ごとに新鮮さを出せる」点で
非常にいいコンセプトだったと思うんですが
後半は「食堂での呑み」が多すぎてそれが無意味になってしまっていたのが
正直失敗だったと思いますね。
泉昌之作品の魅力は一種のマンネリ感にあるというか
原作担当の久住氏がインタビューなどでも
「僕たちはワンパターンでやっている」的なことを言っているんですが
同じ作品を長く続ける長期連載になるとそれが悪い形で出てきてしまうと思うんですよ。
単発の作品なら少しくらいネタが被ってもいいけれど
連載だと同じキャラが同じことを繰り返すだけになってしまう、という引き出しの少なさが
『食の軍師』の後半では顕著になってしまったなあ、と。
そんなわけで長期連載ならではの弱い部分を
どうしても解消できないままに終わってしまった『食の軍師』。
とは言え数年に1回復活、のような不定期でならマンネリ感もそんなに気にならないですし
そんな形でまた本郷や力石に会えたらいいなあ、とは思います。
連載は……もういいかなあ。うん。