永井豪 / 衣谷遊 「バイオレンスジャック20XX」 4巻(最終巻) 感想

ドラゴン騎馬部隊との激戦、親衛隊との死闘、
そして圧倒的な力を誇るスラムキングに苦戦する逞馬たちの前に
再びジャックが現れる『バイオレンスジャック20XX』の最終第4巻。
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というわけで再び地震と共に現れたジャックとキングとの最後の戦いが描かれ
全4巻で堂々完結となった『バイオレンスジャック20XX』。

1~3巻は各キャラの過去話・回想を中心に原作に忠実な形で各エピソードを挿入し
各キャラのバックボーンを描く部分に多くのページを費やしていましたが
それと比べると第4巻はほぼオリジナルの展開。
逞馬と天馬が手を組んでキングに決戦を挑む、という基本的な要素はそのままですが
原作の2人は最終的に大軍を率いる総大将ポジションになって
直接戦う描写がほとんどなくなってしまっていたのに対し
『20XX』は最後まで一人の戦士として描かれていた印象です。

原作の魔王城での決戦と比べると
「大軍と大軍がぶつかり合う大合戦」っぽさはなくなってしまいましたが
ドラゴン騎馬部隊~スラムキング親衛隊~スラムキング本人と
逞馬たちが消耗しつつも仲間たちの助けを得て少数精鋭で決戦に挑む流れは
「ここは俺に任せて先に行け!」なボスラッシュ的な雰囲気もありますね。
原作が戦略SLGなら『20XX』はRPGみたいな感じでしょうか。
ジャックVSキングの最終決戦もしっかり描いてくれてアクション面でも大満足です。

そしてキングとの決着からラストの流れは原作とは完全に別物になっており
「クイーンによって守られるキング」「ジャックとキングの和解」などの描写を加え
「スラムキングの救い」を描いたことが
原作からの最大の変更点であり『20XX』の最大の特徴とも言えるところ。

原作では中盤あたりから「スラムキングの哀しみ」というのがどんどん強調されていき
逞馬たちに追い詰められ自分の息子すら信用出来ず、最後にはクイーンにまで裏切られて
失意のままにジャックとの最終決戦で命果てることとなったキングですが
『20XX』ではクイーンが命を賭してキングを救い、
永遠にキングを守り続けることを約束する、という真逆の流れになっているんですね。
3巻で描かれたクイーンの過去話は原作と違っておりちょっと違和感があったんですが
あれは「最期までキングに寄り添うクイーン」を描くための改変だったんだなあ、と
ここでようやく腑に落ちた感じです。

で、ここからは本編で明言されていないので考察みたいなものになってしまうんですが
ジュンコの双子の出産とシンクロするように描かれたキングの悪夢などを考えると
本作『20XX』でのバイオレンスジャックの正体は
「ジャックとスラムキングは双子の兄弟」(恐らくジャックのほうが兄)
「母親の体を突き破ったのはキングではなくジャック」
ってことになるんじゃないでしょうか。
恐らく衣谷先生の意図としては「デビルマン的要素、オカルト的な要素を極力抑えて
キングの救いを描きたい」というのがあって
そのためにジャックとキングを対等・表裏一体の存在にする必要が
あったんじゃないかと思います。

その点を踏まえて原作と本作『20XX』を読み比べてみると
原作では「母親の体を突き破って生まれてきた」ことが
祖父、銅磨陣内の言葉として客観的に語られていたのに対して
『20XX』では「キングの見た悪夢」「キング自身の思い込み」「キングを恐れる人々の噂」
などなどの形でしか語られていないんですね。
伏線……と言うにはまたちょっと違う気がしますがかなり理詰めというか
そのあたりをしっかりと考えて演出をしていたんだなあ、と思います。

というわけで最終巻にしてジャックとキングの関係に大胆なアレンジを加え
原作で成し得なかった「スラムキングの救い」と共に
大団円を迎えた『バイオレンスジャック20XX』。
正直3巻までは「逞馬竜を中心に原作エピソードを再構成した作品」
「話が整理されているぶん原作のスケール感やお祭り感がなくなってしまった」
というのが自分にとっての本作の印象だったんですが
この最終巻で原作から一つ飛び出した、突き抜けた部分を見せてくれたことで
最後の最後で個人的な評価は一気に上がった感じです。
原作終了から30年が経ってついにスラムキングが報われた、と思うと
非常に感慨深いものがあります。
まるで憑き物が落ちたかのような最後のキングの姿には
心から「良かったね……」と言いたくなりますね。
ありがとうございました。

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