永井豪 / 衣谷遊 「バイオレンスジャック20XX」 2巻 感想
荒廃した関東の地で激突するジャックとスラムキング、
そして逞馬と天馬の両雄が邂逅することとなった
衣谷遊氏による『バイオレンスジャック20XX』の第2巻。
というわけで半年ぶりの単行本となった本巻の前半の見所は
何と言ってもついに登場したジャックの大暴れ。
関東の地に突如現れたジャックとの戦いで仮面を割られるキング、
そして拓馬たちの砦を襲う外道会との抗争、というシチュエーションは
原作の「関東スラム街編」と同じなんですが
本作『20XX』の大きな変更点である「キャラの年齢の底上げ」と
「ジュンコや黒部、田島などのサブキャラを重視したストーリー」の2点によって
全体の印象はかなり異なったものになっている印象。
特にジュンコが囚われの身となりつつも自分の意思と実力でヤクザたちに抵抗する展開は
ある意味ジャックらしい露骨なエロ要素も相まって
彼女がこの物語のヒロインだということをしっかり示してくれた感じですね。
彼女の失声症、心の傷は終盤まで引っ張るのかと思いきや
意外にも早くあっさりと解消されてしまったのはちょっと拍子抜けだったり。
またジャックがキングの仮面を割ったことに対し
原作の逞馬は「キングを怒らせてしまったのに恐怖を抱いていた」んですが
『20XX』では「キングも無敵じゃない」と前向きに、
積極的に打倒スラムキングを意識しているのも大きな違い。
このあたりの考え方は原作だと成長した中盤以降の逞馬に近いものなので
キャラの年齢が引き上げられた『20XX』ならではといった感じですね。
そして後半の見所はついに登場した天馬と逞馬がお互いの思想をぶつけ合う展開。
いやーこのあたりも大胆に原作から変えてきたというか
描写するキャラを絞ったことで思いっきり物語が整理された感じがしますね。
単純に比べるだけでも天馬がテンマグループを率いて外道会と戦う「天馬編」は32巻、
そして逞馬と天馬が対面する「逆襲ハニー編」は最終盤の43巻ですからね。※
(※全45巻の電子書籍版での巻数になります。)
本巻での逞馬と天馬はお互いを認めつつも協力する関係にはまだ遠いですし
「逞馬と天馬は雌雄を決する運命にある」
「逞馬、天馬、スラムキングで関東が天下三分になる」という
原作では匂わせつつも実現しなかった戦国乱世的なシチュエーションを
数十年の時を超えて実現させてくれるのかも、という期待もあります。
それと天馬の人生に大きな影響を与えた年上の女性、けい子先生(立花恵子)は
個人的にはジャック最萌トーナメント第1位というか
永井豪キャラでも指折りの「綺麗な女性」だと思っているんですが
衣谷先生も彼女には思い入れがあるのか「天馬編」での彼女のエピソードが
セリフ回しも含めてほぼ完全再現されていたのが嬉しかったですね。
非常に美しく描かれていて衣谷先生の気合も感じます。
というわけで原作よりもサクサク進んでいるというか
描写するキャラやエピソードを逞馬と天馬の周辺に絞ったことで
物語が一気に整理された感のある『バイオレンスジャック20XX』。
ただそれぞれのキャラが既に自分たちの意思で戦っていることもあって
「ジャックにより周りの人間たちが否応なしに戦いと暴力の渦に巻き込まれてゆく」
という要素がかなり薄くなってしまっているのが気になるところ。
天馬が見せた「ジャックへの憧れ、ジャックが乗り移ったような戦いぶり」も
彼の少年期のエピソード「地獄の風編」がガッツリ削られてしまったので
『20XX』では分かりにくくなってしまっていますし
ジャックの出番が少ないどころかその存在意義すら怪しくなってしまっているのは
タイトルに「バイオレンスジャック」を掲げる作品としては果たしてどうなのかなあ、
とも思ってしまったり。
とは言え「野獣王編」からの引用と思われるシンゴ&ボンバが意外な形で登場したり
本巻ラストでは「海堂」の名前も出てくるなど
ワクワクする要素、気になる要素はたくさんありますし
その中でジャックの出番や影響力が少しずつ増えていったら嬉しいなあ、と。