東北歴史博物館で開催中の特別展『多賀城1300年』に行ってきました。
こちらの展覧会は名前の通り多賀城の創建1300年を記念したもので
先日国宝に指定された「多賀城碑」を中心とした多賀城の資料が中心の展示。
地元ということもあり多賀城跡や埋蔵文化センターには何度も足を運んでおり
常設展などでも多賀城関連の資料は多く見ているため
「わざわざ特別展の料金を払って見るものなのかなあ」
みたいなことを最初は思っていたんですが
実際は多賀城以外の資料も多く非常に充実した展覧会でしたね。
特に第1章は奈良文化財研究所の資料が大半を占めており
藤原京から平城京、平安遷都までの約100年を追っていく内容で
長屋王家木簡や金光明最勝王経などの国宝をはじめとした有名資料が目白押し。
正直この第1章だけで元が取れるんじゃないかってくらいの豪華ぶりでしたし
藤原不比等~長屋王から続いていく奈良時代の権力者の入れ替わりを
中学校レベルの知識でぼんやり覚えているだけでガッツリ楽しめるので
敷居もそんなに高くないです。
多賀城碑についても「天平宝字8年が藤原仲麻呂の乱」「藤原朝狩は仲麻呂の息子」などの
知っていれば面白くなる部分をちゃんとパネルで紹介してくれているので非常に親切。
個人的にはこのあたりは「(大学の)ゼミでやったところだ!」と言えるくらいなのですが
そうした自分の予備知識を抜きにしても丁寧で分かりやすい形になっていたと思います。
数の多さからどこの博物館でも見かける百万塔陀羅尼ももちろんありましたし
個人的に面白かったのがこちらの「習書高杯木簡」。
「脚部を使ってまで繰り返し練習している」という表現がじわじわきます。
当時の人はそんなに深く考えずにしていた行動が
現在にシュールな笑いをもたらしてくれるのが何だか楽しいのです。
ちなみにこちらの「呪いの人形」は胴体に人名が書かれているそうです。コワイ!
そしてもちろん東北地方の資料についても
「蝦夷の討伐」「北方との交流」などをテーマとした充実した内容。
特に蝦夷の討伐は「征夷大将軍に任ぜられた坂上田村麻呂が蝦夷を討伐した」
とだけ語られることが多いんですが
本展では武力衝突が本格的になる38年戦争より前の資料も多く
蝦夷との交流や融和政策からの転換、という流れを知ることが出来るようになっている印象。
また展示の後半は多賀城や東北地方のものが多くを占めるようになっていき
多賀城が都市として独立し、律令政府の衰退にともなって
中央政府ではなく東北各地との交流で文化を築いてゆく流れが
自然に受け入れられるようになっています。
ちなみに東日本大震災ももう十数年前の話、ということで
貞観地震については軽く触れる程度の紹介。
もし今回の展覧会が10年くらい前に開催されていたら関心の高さもあって
もっと詳しく紹介されていたんじゃないかなあ、と思ったりもします。
そんなわけで予想以上に充実した展示で非常に面白かった『多賀城1300年』。
「律令国家と多賀城」をテーマとした非常に取っつきやすい内容だったので
国宝指定と創建1300年、という話題性だけに留まらず
多くの人が楽しめる展覧会だったと思います。
ちなみに会場の出口には毎回アンケート用紙が置かれているんですが
今回の用紙は多言語対応のものがズラリと並んでいて
過去の展覧会よりもインバウンド需要を重視している印象がありましたね。
本当にグリーンランドや南極から来た人がいるのかは疑問に残るところです。
それと大半の展示資料を自前で用意することが出来たからだと思うんですが
今回の『多賀城1300年』は一般の観覧料が1200円、
いろんなところで無料配布している「特別展観覧割引券」を使えば1100円と
非常に安くなっていたのも嬉しいですね。
これだけの数の国宝や重文が揃っている展覧会ならば
通常は1600円~1800円が相場じゃないでしょうか。
図録も1980円と何とか2000円以内に収めようとした努力を感じます。
特別展観覧割引券終了のお知らせ|東北歴史博物館
https://www.thm.pref.miyagi.jp/topics/7165/
ちなみに「特別展観覧割引券」は今年度での廃止が決定しているんですが
巡回展などには使えない上に基本的には前売券を買うほうがお得なので
意外に使う機会が少なかったんですよねこれ。
今回のような「前売券が販売されず、巡回ではない特別展」となると
年に1回あるかないか、といった感じで非常に限られてきますし
需要を考えても今年度で廃止になるのもやむなしかなあ、と。
あって悪いものではないので個人的にはスマホ画面提示みたいな形で
残しておいてはほしいんですけどね……。