映画『マジンガーZ / INFINITY』の脚本を手掛けた小沢高弘(うめ)氏自らの筆による
公式ノベライズ『小説 マジンガーZ / INFINITY』。(2018年1月発売)

映画本編の感想はこちら。

映画 「劇場版 マジンガーZ / INFINITY」 感想
https://tktkgetter.com/blog-entry-1264.html

映画がとにかく面白かったので今回のノベライズ版も買わない手は無かったんですが
『INFINITY』の面白さっていうのは「ぼくらのマジンガーZの大活躍」に尽きるわけで
そのあたりをそのまま文章にしてもビジュアル的に映像作品に勝てるはずがないので
小説でどんなふうにZの活躍が描かれるのかは楽しみ半分、不安半分だったり。

そんなわけでこちらの小説版『マジンガーZ / INFINITY』。
基本的な内容としては映画そのままで極端な変更などはなかったんですが
「尺の都合などでカットされた部分やコンテ段階で追加されたシーンなどを加えて再構成」
「そのままアニメにしたら二時間半から三時間になってしまう」
とあとがきに書かれていたように
映画では「マジンガーZの活躍には必要ないんだよ!」とばかりに割愛されたであろう
「リサが発見されてから甲児のパートナーとなるまでの彼女の分析シーン」
「安保理会議で弓教授(首相)が責められるシーン」
などの人間ドラマの部分(良くも悪くもリアルっぽい)がかなり増えていた印象。

その他にもグレートの前にあしゅら男爵が現れるシーンで
鉄也とあしゅらが初対面であることを示す「はじめまして」というセリフがあったり
マジンガーを起動させるためにボスが研究所の旧スタッフを集めるシーンがあったり
(それに伴ってみさとさんの立ち位置も少しばかり変化)と
細かいところでの相違点がちらほら。
この小説を初期稿と考えると
「みんなが知ってるマジンガーZ」を映画にするにあたって
「細かなキャラ設定や紹介などの説明部分を削り取った」のが分かりますね。

そして映画の公開前に漫画として連載された前日談
『インターバルピース』でのエピソードについても言及しており、
漫画では原因不明のまま終わってしまった
マジンガーの暴発理由が明らかになったことも特筆すべきところ。

『インターバルピース』の感想はこちら。

永井豪/小沢高広(うめ)/長田馨 『マジンガーZ インターバルピース』 感想
https://tktkgetter.com/blog-entry-1438.html

このあたりは『インターバルピース』でのモヤモヤがようやく附に落ちたというか
いい感じにメディアミックス感が出ていると思いますね。
映画本編に『インターバルピース』と『小説版』の2冊を加えることで
『INFINITY』の世界がしっかりと補完された感じがします。

ただ後半の戦闘シーンはやっぱり映画の迫力には敵わないというか
マジンガーの活躍も含めてかなりの部分が割愛されてしまっていたのが残念だったところ。
特にあしゅら&ブロッケン~地獄大元帥~ゴラーゴン発動~の流れは映画とかなり違っており
パイルダーを分離させての戦いもマジンパワーの発動もなし。
あしゅら&ブロッケンを倒したのがシロー率いるイチナナ式の三番隊だったりと
この小説では映画よりも「リアルな量産型の活躍シーン」が多いですが
このあたりはマジンガーの活躍を求める人たちとの認識の違いがあった気がしますね。

それと後書きで「TVシリーズのZからグレートの交代劇にショックを受け、
なかなかグレートを受け入れられなかった」との回顧があり
そのあたりが無意識のうちに出てしまっていたのか
映画本編に輪をかけてグレートが不憫な役割になってしまっていた印象。
導入部での戦闘シーンでは映画よりも不承認の武器が増えており
ブレストバーンやサンダーブレークも使用不可、
イチナナ式の翼ユニットがグレートブースターと呼ばれたことでオンリーワンな部分も消失、
更にインフィニティから救出されるシーンなんて
「Zにロケットパンチで殴られて強引に引き剥がされる」という
何とも言えない状況になってしまっていますからね。
さすがにこれではグレート好きな人はいい気はしないだろう、と
他のスタッフや東映側からストップがかかったんじゃないでしょうか。

というわけで後半の戦闘シーン、アクション面では映画に軍配が上がりますが
脚本を手掛けた小沢高弘(うめ)氏が手掛けたことでノベライズとしては違和感もなく
細かい補足なども含めてしっかりと楽しめた小説版『INFINITY』。
中でも「ミケーネ語での『ゴラーゴン』の意味に言及するシーン」と
「甲児が隣接次元の仮説を知ったのがDr.ヘルが過去に書いた論文からであり、
その画期的な理論に科学者として敗北したことを吐露するシーン」の二つは
世界観やキャラに深みを与える意味でも映画本編に入れてほしかったなあ、と思いますね。
ディレクターズカット版とか……やっぱり無理ですかね?

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小説 マジンガーZ / INFINITY

小説 マジンガーZ / INFINITY

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  アニメ映画, アニメ・漫画, ダイナミック系, 映画

映画『マジンガーZ / INFINITY』の公開前に月刊ヤングマガジン誌で連載され
TV版と映画の間の空白の10年間が綴られた
『マジンガーZ インターバルピース』の単行本(2017年12月発売)。

月刊ヤングマガジン誌でのダイナミックプロ作品というと
以前に連載されたTEAM MOON氏の『デビルマン対闇の帝王』を思い出しますが
今回の漫画を手掛けた長田馨氏の緻密で丁寧な絵柄も負けず劣らず魅力的。
ヤンマガ誌はダイナミック作品にあまり関わっていない作家さんを
選んでくれているのが新鮮味もあって嬉しいですね。

そんなわけでこちらの『マジンガーZ インターバルピース』。
話ごとにスポットが当たるキャラが異なる群像劇・短編連作的な作品なので
1話ずつ感想を書いていきたいと思います。

○第1話
というわけで第1話は我らが兜甲児を中心に
設定のみで尻切れになってしまったヘルの五大軍団の壊滅や
ミケーネの残党狩りなどが描かれるエピソード。
とは言えマジンガーZを駆って大活躍、とは行かず全体の雰囲気は淡々としたもので
「敵がいたからマジンガーZのパイロット≒英雄でいられたという現実」
「打倒マジンガーという使命に邁進することが出来る機械獣たちへの憐憫と羨望」
「テロリストのAIによって機械獣たちの矜持が踏みにじられたことに対する怒り」
などなど第1話にして本作の方向性を決定付けたというか
「大人にならざるを得なくなってしまった兜甲児」をこれでもかと見せつける展開。
うーん重い。
このあたりの悩みや迷いは映画本編のヘルとの会話で改めて指摘されることになりますね。

○第2話
第2話はヒロイン、さやかさんを中心に
映画でのそれぞれの立場(弓教授=日本首相、さやか=所長)や
世界観(光子力エネルギーによるインフラの整備や新都市)が
どのように築かれていったのか、を描くエピソード。
食事をしながら停電事件に遠隔操作で対処する、という
ともすれば地味になりそうなシチュエーションながら
肉料理にかぶりつくエキセントリックなさやかさんなど見せ場もあるのが巧いところですね。
第1話のテーマが「大人になり切れない悩み」とするならば
こちらは「誰かのために大人にならなければならない辛さ」といったところでしょうか。

○第3話
第3話は鉄也&ジュンのペアを主人公に
彼らのプロポーズから新居探しまでを描くエピソード。
デモを起こそうとするテロリストや光子力への依存に反対する住民など
1~2話との繋がりを感じさせる描写もありますが
基本的には二人の不器用な恋愛話、といった感じ。
男性がナチュラルに車道側を歩いてくれるカップルを羨ましそうに見るジュンに
後々になってから弁明したりと
鉄也さんの言葉足らずの不器用さが逆に微笑ましくも感じますね。
「大人になると効率や理屈を第一に考えてしまうけど
結局は子供の頃に夢見ていたものに戻ることになる」という結論は
甲児やさやかさんよりも一足先に目指す場所にたどり着いた、という
ハッピーエンド感もあります。

○第4話
第4話はラーメン屋を構えるようになったボスを主人公に
彼が自分を慕うヌケとムチャを再び従えるようになるまでのエピソード。
本エピソードでも大人になってしまったがゆえの遠慮や
それによる苦悩というものが描かれることになるんですが
ヌケとムチャの危機に対し大人としての立場があるがゆえに
最後までマジンガーZを出せなかった甲児とさやかに対し
「互いに心配をかけないように何も言わず干渉しないのが大人じゃない」
とボロットを駆り出すボスの格好良さが目を引くところ。
ボスは映画本編でも甲児の親友、ヌケとムチャの親分、コメディリリーフと
「変わらないボス」としての安心感、安定感を見せてくれていましたが
本エピソードがあると映画本編のボスたちに更に深みが出るというか
甲児たちが持つ大人になったことの悩みを既に乗り越えていたことが分かりますね。
映画での彼らは変わっていなかったのではなく
本当に大切なものに立ち返ることが出来ていた、といった感じでしょうか。
「自分の発言の影響力を理解しなさい」とさやかさんに説教された甲児が
ラストではその影響力を逆手に取ってボスにご祝儀を送る演出がニクいですね。
起承転結がはっきりしていて非常に好きなエピソードです。

○第5話、第6話
前後編で綴られる最終エピソードの第5話、第6話は
マジンガーZの暴発の危機に再びダブルマジンガーが並び立つことになる
甲児と鉄也を主人公としたエピソード。
映画本編でリサとの二人乗りだったことを踏まえての
「パイルダーの操縦席後ろにゆとりがある」発言や
ジェットパイルダーではなくホバーパイルダーが使われたことの説明
(グレートブースターと同じく外付け兵器扱いで非承認だったんですね)の他、
政界入りをした弓教授、立食で羽目を外すヌケとムチャをたしなめるボスなど
これまでのエピソードを踏まえた描写もあり
『インターバルピース』の集大成の雰囲気もありますね。
また全身武器のグレートと違う「ブーメランとして取り外せないZの放熱版」を
「それも含めてマジンガーZのブラックボックス」としたのは面白い視点だなあ、と。

そしてZの暴走事故を抑えてハッピーエンド、とは簡単に行かず
暗雲の立ちこめる中でドクター・ヘルの関与などを訝るさやかさんの1コマでエンディング。
このあたりのマジンガーのブラックボックスやヘルの関与については
ちょっと後味の悪い形だったので映画本編で明かされるのかと思っていましたが
特に具体的な言及などはありませんでしたね。
(後に刊行された小説版で言及あり)

というわけでこちらの『インターバルピース』。
WEB連載の『アルターイグニッション』と合わせて
映画公開直前での単行本発売となりましたが
映画本編をフォローするようなエピソードも多かったので
上映前に一読、上映後に一読と一粒で二度美味しい単行本、といった感じですね。
鉄也&ジュンのエピソードやボスのエピソードは
映画を観てから読み返すとより印象が強くなりますし
『INFINITY』が好きならしっかり押さえておきたい作品だと思います。はい。

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  アニメ・漫画, ダイナミック系

2018年の映画『マジンガーZ / INFINITY』の公開に合わせ
ダイナミックプロの公式サイトでWEBコミックとして連載された
衣谷遊氏による『マジンガーZ アルターイグニッション』の単行本(2017年12月発売)。
星和弥氏の『ダイノゲッター』や風忍氏の『鋼鉄ジーグ 飛龍伝』など
ダイナミックプロの公式サイトで発表された作品は
ページ数はあるのに書籍化されない(しかも公開終了してしまう)作品が多かったので
こうして単行本化してくれるのは素直に嬉しいですね。

というわけで今回の「アルターイグニッション」は
映画『マジンガーZ / INFINITY』がTVアニメ版の直接の続編、ということで
映画の予習として「初見の人にもマジンガーZという物語の始まりを知ってもらおう」
的なコンセプトで描かれたような作品。
マジンガーZの導入部はメディアによってかなりの違いがありますし
映画用に統一された設定がほしかった、みたいな事情もあったのかもしれませんね。

そんなこんなでTVアニメ版をベースにその他の設定の美味しいとこ取り、
といった感じの「アルターイグニッション」ですが
過去話となる十蔵とヘルの交流、ミケーネ文明の発掘調査に
1話をまるまる使っているのが最初に印象的だったところ。
(全5話なので1/5が過去話ということになりますね。)。
十蔵とヘルの過去というと桜多吾作氏の異色短編『闘え!!Dr.ヘル』は欠かせませんが
バードス島での事件はそのあたりをリスペクトしているようにも見受けられますね。

続く第2話では十蔵が『真マジンガー』の十蔵さながらに
超合金を用いて激しく抵抗するなどおじいちゃんが大活躍。
第1話でヘルに撃たれた伏線を解消しつつのまさかのロケットパンチは非常に巧い描写です。
TVアニメ版の「顔がそんなに怖くないおじいちゃん」が
アグレッシブなアクションを見せる様子はかなり新鮮に感じますね。

そして後半はマジンガーZを受け継いだ甲児の初戦が描かれる展開。
衣谷遊氏は『AMON デビルマン黙示録』でのデーモンがグチャグチャドロドロに融合する
気持ち悪いほどの生物的な表現が印象的だったため
「ガッシリとしたメカアクションには向いてないんじゃないか」と勝手に思っていたんですが
「しっかりと重量感のあるマジンガー」が描かれていてそこのところはひと安心。
特にパイルダーオンやロケットパンチといった見せ場を数ページかけて
じっくり見せてくれるなどのメリハリがついた演出が良かったですね。

また操縦の方法が分からず四苦八苦する様子や
後のパイロットスーツの開発へと繋がる生身の人間が乗るからこその弱点、
甲児の怒りによって暴走しかけるマジンガーなど
原作アニメの「パイオニアでありながら現在でも通じるリアルで画期的だった設定」を
しっかりと押さえてくれているのも嬉しいところ。
本筋とは関係ないはずの甲児の父、剣造の存在を随所で匂わしてくれるなど
細かなファンサービスもしっかりあります。

というわけでいろんなバージョンがあるマジンガーZの導入部から
美味しいところだけをすくって高レベルでまとめ上げた『アルターイグニッション』。
単行本一冊で綺麗にまとまっていますし
これを今後のマジンガーにおける導入部のスタンダードにしてしまってもいいんじゃないか、
とすら思ってしまいますね。
映画『マジンガーZ / INFINITY』のメディアミックスの一つとして
片付けてしまうのはもったいないくらい良く出来てますよ本当。
マジンガー知らない人にもこれだけ見せておけばプロローグはバッチリです。

あ、それと内容とは全く関係ないところでの不満なんですが
WEB連載から単行本発売までのスケジュールは
もっと余裕をもってほしかったなあ、と思いましたね。
本書の刊行が2017年12月、『マジンガーZ / INFINITY』の上映が2018年1月で
「映画の公開に間に合うように本を出したかった」
「WEBでタダで読める状態だと単行本が売れなくなってしまう」
という商業的な事情は分かるんですが
本作はWEB連載時に最終話の公開期間だけ目に見えて短かったんですよ。
なにぶん数年前のことなのではっきりとは覚えていないんですが
たぶん最終話の公開期間は2週間もなかったんじゃないでしょうか。
ちょっとそこだけが不親切だった気がしますね。はい。

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  アニメ・漫画, ダイナミック系

永井豪先生の画業50周年を記念して2017年に発売された短編集『豪画沙』。
上巻同様に下巻も作品ごとのちょっとした感想を書いてみたいと思います。

上巻の感想はこちら。
永井豪 「幻選短編集 豪画沙」 上巻 感想
https://tktkgetter.com/blog-entry-1435.html


○バイオレンスジャック~戦国魔人伝~
永井豪先生の最長作品である『バイオレンスジャック』の1エピソードでありながら
現在まで単行本化に恵まれなかった「戦国魔人伝」が待望の収録。
巨大なエネルギーの塊とも言えるジャックの身長は作中でもちょこちょこ変わっており
「ジャックの2m20cmという身長はありそうだけどあり得ないくらい、と
思っての設定だったが現実に2m超えのスポーツ選手等が登場してきたことで
ジャックも対抗するようにどんどん大きくなっていった」と豪先生は言っていましたが
それを反映してか21世紀に蘇った今回のジャックの身長はなんと2m80cm。
うーん、でかい。
そして『魔王降臨編』や『新バイオレンスジャック』など、完結後に描かれたジャックは
「ジャック=デビルマン」というその正体を前提とした演出や展開が多いのに対し
こちらの『戦国魔人伝』ではそのあたりへの言及は一切なし。
「ジャックは戦国時代をやりたかった」と言っていた内容そのままに
本作の舞台はまんま戦国時代だったり、
「ジャックは狂言回しであり、彼が動くことで周囲の人間が暴力の渦に巻き込まれていく」
という全体の流れなども含めてジャックの原点に回帰したストーリー、といった感じですね。
ラストは完全に尻切れなんですがこれはこれでジャックらしいのかもなあ、と。


○夢幻戦士
原因不明の奇病で眠り続ける恋人を助けるため
主人公が夢の世界で化け物と戦うアクション作品。
シチュエーションやストーリー自体はよくある話、と見せかけて
ラストに恋人が目覚めてハッピーエンド、とはならないビターさに
一筋縄ではいかない永井豪先生らしさを感じますね。
夢の中で変身した主人公のビジュアルが「いかにも古めかしい神話の英雄」で
そのあたりにチープさを感じてしまうのはご愛敬。
病院の壁から別の世界が、というのは『手天童子』をちょっと思い出しますね。


○カイケツ風呂頭巾
「顔を隠してれば恥ずかしくないもん!」をテーマに
カイケツ風呂頭巾が江戸の町で活躍する勧善懲悪痛快アクション。
乳とケツが連続で障子を破ったかと思うと
その次のページで「カイケツ風呂頭巾参上!」のテンポの良さが大好きです。
ラストの「もう一回やらせてくれたら~」などの文言など
作品全体に『けっこう仮面』の要素が散りばめられており
永井豪先生も続編というか自己パロディのように描いてみた、と言っていましたが
『けっこう仮面』自体がパロディ要素を多分に含んでいたことを考えると
パロディのパロディである意味三次創作、と呼べるのかもしれないなあ、と。


○ワンだ君
二本足で歩くことが出来る犬、ワンだ君(コロ)が
飼い主の気まぐれで学校に通うことになるドタバタギャグ作品。
冷奴先生がゲストキャラというよりも完全に主人公として活躍していたり
犬が完全に被害者じゃないか、という不条理さにモヤモヤしたりと
良くも悪くも2006年の作品とは思えないフリーダムさに
コミックボンボン末期の迷走っぷりが感じられて
ボンボン派としてはいろんな意味で涙が出る作品ではあります。


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  バイオレンスジャック, アニメ・漫画, ダイナミック系

永井豪先生の画業50周年を記念して2017年に上下巻で発売された短編集『豪画沙』。
いろいろあって発売してから数年後の感想記事になってしまいましたが
この短編集の売りは何と言っても「全収録作が初単行本化」という大盤振る舞い。
永井豪先生のような有名作を多く排出している漫画家さんになると
短編集はどうしても再録ばっかりの「傑作選」みたいになってしまいがちなので
本書の「初単行本化のみ!」というコンセプトは非常にありがたいですね。

特に各巻の表紙にもなっている『悪魔騎士』と『バイオレンスジャック 戦国魔人伝』は
まさに待ちに待った単行本化。
『悪魔騎士』は鎧を着たアモンたちの姿など
『デビルマンサーガ』のプロトタイプ(?)としても押さえておきたい話ですし
『戦国魔人伝』は『新ジャック』の単行本が出た時にも収録されず
「あれが最後のチャンスだと思ってたのに」と半ば諦めていただけに
今回こうして収録されたのが本当に嬉しいです。

そして収録作の多くが2000年以降の作品、というのも注目すべきところ。
2017年にもなって単行本未収録作品だけの短編集を2冊も出せる、
しかも多くが2000年代以降の作品、というのが
現在進行形で精力的に活動を続けている永井豪先生のすごさ、多作さを感じますね。
本短編集のタイトルを大きな数の単位「恒河沙」になぞらえた「豪画沙」としたのも
そのあたりの理由からでしょうか。

そんなわけで一つ一つの作品の感想を簡単に書いていこうと思います。
(初出年は巻末の記載を参考)


○悪魔騎士 Demon Knight(2007~2009)
『デビルマン』の過去の世界を舞台にデーモンたちの誕生を描いた3話構成の作品。
3話目では明や了も登場し『デビルマン』の1エピソードっぽい雰囲気になっているものの
・鎧を着たアモンやシレーヌが隊長と副官となっている設定
・「それはサーガの始まり」という第1話での文言
などどちらかと言えば『デビルマンサーガ』のプロトタイプ、のほうが近い印象。
「本作のアモンたちがデーモンとなった世界→デビルマン」
「融合せず鎧を着たまま神々に反逆した世界→デビルマンサーガ」と
捉えることも出来るのかなあ、と。
しかしどこの世界でもやっぱり明(アモン)を戦いに導くのは了(サタン)なんですね。


○娘中天(2004)
『後漢書』の秘術によってお調子者の男性が過去を省みながら
自分を本当に思ってくれていた女性に思いを馳せる、というストーリー。
20Pほどの短編にもかかわらず綺麗にまとまっており
テーマが普遍的なものであることを考えても
導入部のちょっとエッチな描写さえなければ少年向け作品としても成り立つ気がしますね。
作品全体に漂う「すこしふしぎ」な雰囲気はドラえもん的でもありますが
エッチな描写によってそうならないのは永井豪作品っぽい感じです。


○シレーヌちゃん(2012)
シレーヌや明、了といった『デビルマン』の面々をとにかく下品に、
とにかくくだらなくしたギャグ作品。
方向性は雑誌「デビ×ハニ」に掲載されていた四コマ漫画「デビハニ4コマ劇場」に近いけど
あちらを遥かに越えるくだらなさ(誉め言葉)。
いやこれはもう原作者の永井豪先生だからこそ出来ることですね。
第1話の弁当と称して卵を産むシーンなんてほんと
「こいつはひでぇや!(誉め言葉)」って言いたくなりますよ。
家族がいるのに家の表札が「シレーヌちゃん」だったり
もう全編突っ込みどころしかなくて最高ですよ。ああひどい(誉め言葉)。
でもこれ許せない人は絶対許せないんだろうなあ、とも思ってしまったり。


○霊界ドアー(2009)
療養のために別荘である年代物の屋敷で過ごすことになった主人公が怪異と出会う物語。
次に収録されている『ヴァンパイアコップ』なども含めて
永井豪先生のこの手の妖怪・異形モノは主人公が男性であることが多いんですが
本作は主人公やその親友、物語の解決役として登場する雪女など
主要キャラがほぼ女性で構成されているのが珍しいところ。
ここで主人公が男性だとアクション要素が増えるんですが
今回はその代わりに「あら^~」というか「キマシタワー」というか
猟奇ミステリー、エロホラーなどの要素が全編に漂っているのが印象的。
正直こういう雰囲気は大好きなのでこの短編集の中で一番好きな作品ですね。はい。


○ヴァンパイアコップ(1999)
ドラッグ犯罪がはびこる近未来の東京を舞台に
刑事の男性とヴァンパイアの女性が活躍するバイオレンス・アクション。
本作『ヴァンパイアコップ』みたいな
刑事や探偵、ジャーナリストの男性が怪異を調査する上で
人間じゃない女性とバディを組む、というシチュエーションは
2000年前後の永井豪先生の作品ではけっこう見かける感じがしますね。
『デビルマンレディー』の早見刑事なんかもその系譜かなあ、と。
中華系移民が多い近未来の東京、というのは作中でも言われているように
完全にブレードランナー的な世界観ですが
舞台となっている2009年が既に10年以上昔になってしまっているのに時代を感じます。
ところで永井豪先生の作品って未来の東京を「TOKYO」と表記するのが多いですね。
最新作『デビルマンサーガ』でもそうですし。


○ハレンチママさん(1985)
タイトル通りに「何をしてもハレンチになってしまうママさん」の一日を描いた掌編作品。
『ハレンチ学園』で一世を風靡した永井豪先生なので
「ハレンチ」をテーマに一本描いてください、みたいな感じのオファーが
あったんじゃないかと思いますね。
初出が1985年と本短編集の中では一番古いので
絵柄的にも作風的にも他の収録作とはちょっと違う雰囲気の作品な気がします。


下巻の感想はこちら。
永井豪 「幻選短編集 豪画沙」 下巻 感想
https://tktkgetter.com/blog-entry-1436.html

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  バイオレンスジャック, アニメ・漫画, ダイナミック系