筋肉はゴリラ! 牙は狼! 燃える瞳は原始の炎!
令和の混迷の時代に暴力を呼ぶあの男が帰ってきた!
というわけで『月刊ヤングマガジン』で連載中の
衣谷遊氏による『バイオレンスジャック』のリメイク作品
『バイオレンスジャック20XX』の第1巻が発売。
『ジャック』は物語の性質上いくらでも外伝を作ることが出来るので
今回の『20XX』も永井豪先生が本編終了後に発表した
『魔王降臨編』『戦国魔人伝』『新ジャック』などのような
単発でのオリジナルストーリーになるのかと思っていましたが
蓋を開けてみればまさかの完全リメイク作品。
原作では小学生だった竜が中学生になっており
地震後の仲間として登場していた黒部やジュンコとは既に顔見知りの状態、
他にも学生だったユリ姉ぇがOLとして働いているなど
キャラの年齢の底上げや逞馬家の家族構成を中心に
細かな設定やシチュエーションはかなり変わっているはずなんですが
「乗り捨てられていた車で炎を突っ切る竜」「炎の石つぶてから竜を守るユリ姉ぇ」など
要所要所が原作そのまま、ということもありリメイク以上にリライト的な感じすらあります。
中でもユリ姉ぇが想いを寄せる年上の男性(「原作での「くとみ先生」)が
学校の先生から仕事の得意先の男性になったのには
何て言うかすごい生々しさを感じてしまいますね。
作中で明言こそされていませんが本作の「久登美さん」からは
妻子持ちっぽい雰囲気もありますし。
とは言え原作が発表されてから50年が経とうとしていることもあって
細かな舞台装置や道具などにはさすがにかなりのアレンジがされている印象。
公衆Wi-Fiに接続して位置情報で家族の居場所を確認したり
動画サイトを参考に車を運転していたりと
キャラクターがスマホを駆使するキャラになっているのは
今の時代ならではの変化ですね。
また関東地獄地震の規模がM8.9からM10になったのも現代的なアレンジの一つ。
恐らく昔は「あり得るけどまず起こらないであろう超巨大地震」として
M8.9という数値が設定されていたんでしょうが
現実にM9クラスの地震が国内で発生してしまったことで
本作の地震の設定も見直された感じがしますね。
そして「ジャックがなかなか出てこない」ところまでも完全にリスペクト。
原作は地震発生の数ヵ月前から物語が始まって
地震の発生から避難の状況、姉との死別までに単行本1冊以上を費やしており
結果としてジャックが本格的に登場するのは優に300ページを過ぎたあたりだったんですが
本作『20XX』でも今回の第1巻ではジャックは本編に登場はせず
プロローグの顔見せのみ、というこだわりよう。
タイトルにもなっているキャラが読めども読めども出てこない、というのは
絶対に原作を意識してのことだと思いますよ。
完全にファン向けの作品ですし
もちろん読者もみんな「分かってる」ことを前提としているはずです。
そんなわけで細かな変更点はあるものの
びっくりするほど王道なリメイク作品だった『バイオレンスジャック20XX』。
気になるのはやっぱり今後どこまでやるつもりなのか、というところですね。
永井豪先生の最長作品である『バイオレンスジャック』は
中公文庫の分厚い完全版が全18巻、
それを底本とした電子書籍が全45巻にもなる大長編ですし
「このまま全部のエピソードを最後までやる」というのは
今の連載ペースから見ても考えづらいところ。
田島やゴロとの因縁、黒部との関係、
「弓道少女」「失声症」などの設定が加わりヒロインっぽくなったジュンコなど
竜の周囲の人間関係がかなり掘り下げられていることから考えても
恐らく「逞馬竜の物語」として描かれていくんだとは思いますが
公式サイトの本作の紹介文では天馬や海堂の登場が既に示唆されていますし
どこまでやるのかは本当に分かりませんね。
バイオレンスジャック20XX|ヤングマガジン公式サイト
https://magazine.yanmaga.jp/c/VJ20XX/
「黄金都市編」あたりまで入っていくと
終盤まで続く伏線がバリバリ出てきてしまいますし。
あと気になるのは次巻以降に大暴れするであろうジャックの描き方ですね。
衣谷先生の絵柄は有機的というか肉感的というか
男性キャラが細マッチョ的に描かれていることが多いので
ジャックには似つかわしくないんじゃないか、という不安もあったりします。
正直「衣谷先生がバイオレンスジャックを描く」と知った時には
「絵柄合わなくない?」と思ってしまいましたし。
まあ『アルターイグニッション』ではしっかりメカアクションもやってくれてましたし
そこらへんは外野が心配することでもないですね。
いやーしかし衣谷先生もすっかりダイナミック作家の一人になりましたね。
『デビルマン』(AMON)、『マジンガーZ』(アルターイグニッション)、
そして『バイオレンスジャック』(20XX)の3作品に携わっているというのは
よくよく考えるとすごいことだと思います。
余談ですが「斬馬刀!」「はっ!」のやり取りが好きなんです。
『20XX』でもしっかり再現されていて嬉しいです。