『デビルマン』と『マジンガーZ』の二大作品が50周年を迎えた記念本として
「漫画家本SPECIAL 永井豪本」が刊行。
こちらの「漫画家本SPECIAL」シリーズは今まで購入したことがなく
三栄書房のムック本「大解剖シリーズ」のような
作品紹介や設定資料が中心のデータ本みたいなイメージを持っていたんですが
蓋を開けてみればA5サイズに文字や寄稿イラストがびっしりで
じっくり文章を読ませる研究本・評論本、といった雰囲気。
永井豪先生のロングインタビューを筆頭に
「殺陣」「ヒロイン」「正義」などいろいろな面から見る作品論のほか、
思い入れや影響力を語るエッセイ、50周年の慶祝メッセージに費やされており
自分が思っていた本とはちょっと違うなあ、というのが第一印象でしたね。
ただそうした寄稿やインタビュー、評論を執筆しているのは
『DEVILMAN crybaby』の湯浅政明監督や
『マジンガーZ/INFINITY』の脚本を担当したうめ(小沢高広)など
近年のデビルマンやマジンガー作品に携わっていた方をはじめとして
ちばてつや氏や庵野秀明氏や筒井康隆氏などの超豪華メンバーが勢揃い。
思い入れを熱く語るエッセイ漫画を描かせたら天下一品、の島本和彦氏や
相変わらずの絵柄コピーっぷりを見せつけてくれる田中圭一氏のギャグ作品も
印象に残るところです。
というわけで錚々たるメンバーによる一種のお祭り本、お祝い本としては
非常に読み応えがある本なんですが
一つ疑問に思ってしまったのが「この本はどういう読者を想定しているんだろう」という点。
文字が多めの研究・評論本ということで基本的にはコアなファン向けで
『魔王ダンテ』に始まって『デビルマン』と『マジンガーZ』の内容、
『バイオレンスジャック』への流れを当然知っているものとして書かれている感じなんですが
その一方で申し訳程度に「ここから先ネタバレがあります」みたいな注釈があったり
藤田和日郎氏と皆川亮二氏の対談が「若い人たちに向けた読む順ガイド」だったことに
ちょっとチグハグさを感じてしまったんですね。
この対談は読み物としては大変面白いんですが(自分も『手天童子』が一押しですね)
そもそも永井豪作品を読んだことがない人がこの本を手に取るのだろうか、と考えると
「うん……?」と首を捻ってしまうところです。
そして本書の最後のほうには作品リストや年表が収録されているんですが
本書の作品リストは「デビューから最初の10年を暴れぬいた~」という名目で
デビューから1981年までの部分しか収録されていないんですね。
作品リストが途中まで、というのは片手落ち、中途半端にも思えてしまいますが
正直これが本書の本音というか「やっぱ永井豪先生はこの時代だよね」みたいなのが
作り手側の共通認識としてあったのは間違いないんじゃないんでしょうか。
デビルマンもマジンガーも単に50周年というだけでなく
「50年間現役で新作や新シリーズが作られ続けてきた」ことがすごいと思うんですが
寄稿者のほとんどが60年代、あるいはそれより前の生まれで
後年の作品にはほとんど触れられず「原体験としての永井豪」に終始してしまっているのは
本書の不満点の1つであります。
いやまあその世代の方たちが一番ファンとして層が厚いのは分かるんですが
それ以外のファンの肩身が狭くなるような本になってしまってしまっているのは
否めないなあ、と。
本書の寄稿には高橋しん氏によるマジンガー&ちせのイラストがありますが
自分なんかは『最終兵器彼女』のほうがリアルタイム世代だったりするんですよね……。
そんなわけでもっと80年代、90年代の作品にも言及してほしかったですね。
『ゴッドマジンガー』→『USAマジンガー』→『マジンサーガ』の設定の変遷などは
まさに永井豪先生の英雄論とも言えるものですし
そのあたりに触れた論評などがあっても良かったんじゃないかと思うんですよ。
むしろ書かせて。
とまあそんな感じでちょっとばかり話が脱線してしまいましたが
本書の巻末には目玉として
本邦初公開となる永井豪先生の最新作『新装開店 ハレンチ学園』が掲載。
えーとこの作品の経緯については大人の事情なのか本書の中では触れられていないんですが
2021年にビッグコミック誌に掲載予定だったものの
出版社の意向によってダメ出しが出た作品……ということでいいんですよねこれ。
そんな事情もあってどうしても色眼鏡で見てしまうところがあるんですが
こちらの『新装開店 ハレンチ学園』はとにかく楽しい作品でしたね。
突撃してくるハレンチ学園教師たちに大立ち回りを繰り広げる十兵衛、
唐突な放課後からラストページまでツッコミ不在のままノンストップで駆け抜ける
全34ページのドタバタはまさに平常運転のハレンチ学園。
古い言い方をすれば「からからと笑える」感じです。
そんなふうに頭をからっぽにして楽しめる反面、
極端にモロ的な描写や過激な表現があるわけではないですし
これを「マンガだよマンガ」と冗談として捉えられなくなってしまったら
そっちのほうがマズいのでは、思ってしまうのです。はい。