永井豪/岩本佳浩 「闘神デビルマン」 感想

90年代にコミックボンボンに連載された岩本佳浩氏による『闘神デビルマン』が
18年の時を経て復刊ドットコムより初の単行本化。(2017年5月発売)

本書の発売は5年以上前になってしまうんですが
自分は当時復刊ドットコム通販でサイン本が当選しており
その時にTwitterのほうには写真を出した記憶があります。

そんなわけでこちらの『闘神デビルマン』ですが
一番の特徴は漫画版とアニメ版との折衷案とも言える
「人間・神代慶と悪魔・アモンとの二人三脚」というシチュエーション。
こういう設定にしたことで人間・神代慶としての日常パートと
悪魔・アモンとしての敵とのドラマの両方を描くことが出来た感じですね。
本作はエンディングも含めて「人知れず戦い続けるダークヒーロー」的な演出も多いんですが
二人が最終的に「友達」になったことでダークヒーロー特有の孤独感や寂しさはなく
爽やかな読後感すらあります。

またボンボン掲載ということで低年齢層を意識したのか
子供キャラの出番の多さやマスコットキャラのマジクの存在などが印象的ですが
文字通りの「人犬」や人間の恐怖そのものがデーモンの食糧となっている設定など
(エグいホラー描写にも「人間に恐怖を与えるため」というしっかりとした理由がある)
要所要所のトラウマ演出によっていい感じにメリハリが付いているのも本作の魅力。
原作漫画『デビルマン』の自分の第一印象は
「怖くて気持ち悪いけど何だか気になるマンガ」だったんですが
本作も同じようなインパクトを読者の子供たちに与えてくれたんじゃないでしょうか。

ただ慶の影響を受けて変わっていくアモンの心の変化に対して
慶のほうは最初からキャラが完成していて成長が少ない……というか
中学生にしてはあまりにも大人すぎる、立派すぎるのが引っ掛かってしまったところ。
他者に騙されてピンチになっている時に「お前が騙しているのは自分自身だ」と
言い放つことが出来る中学生なんているんですかね……。
「頼れる近所のお兄ちゃん」みたいにしたかったのは分かるんですが
ちょっとやり過ぎだった気もします。
仮面ライダーみたいに大学生~20代の青年なら
まだ違和感はなかったと思うんですが。

岩本先生によれば「最初は小学生にするつもりだった」ようですし
恐らく岩本先生や当時の編集さんの意向としては
「ボンボン読者の低年齢層に向けたデビルマン」というのを重視していて
「主人公が中学生」というのもギリギリの判断だったんじゃないかと思います。

とは言っても『王ドロボウJING』などが好評を博していたように
当時のコミックボンボンは完全に読者の世代交代に失敗していた感があるので
(当時中学生~高校生だった自分も∀ガンダムとか読んでました)
主人公を低年齢化する必要性とか
オクヤス少年みたいな子供の目線になるキャラは要らなかったんじゃないか、
くらいのことを個人的には思ってしまうんですね。

本作『闘神デビルマン』の連載終了とほぼ時を同じくして
中高生以上のマニア向けとなる「マガジンZ」が創刊していることを考えると
本作のボンボン連載はタイミングの悪さもあったのかなあ、と
岡目八目的に思ってしまう部分もあります。

しかしボンボンもマガジンZも既にないんですよね……。
何もかもみな懐かしい……。

そして今回が初の単行本化ということもあって
各章ごとに本編を補完するような岩本先生へのQ&Aがあったり
巻末には設定資料も兼ねた後書きマンガがあったりとおまけも充実。
「絶対この先生エロいぞ!」と思わせてくれるシレーヌの人間体や
どことなくビックリマンっぽさを感じるSDイラストなどが見所ですが
敵幹部のデザインについて「デーモンは鎧などは身に着けない」との
永井豪先生からの意見があった、というのが特に印象的だったところ。
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『デビルマンレディー』で最初は鎧や人間の武器を用いて戦っていたジュンが
中盤以降にデーモンとデビルマンの違いに苦悩していく中で
巨大化すると同時に鎧を破壊して戦うようになっていったこと、
そして後年の『デビルマンサーガ』では鎧を纏うこと自体が
デビルマン化を意味していたことを考えると興味深いものがありますね。
永井豪先生はインタビューなどで
「人間が武器を持って力を持つこと≒デビルマンあるいはデーモン化の象徴」
みたいに語っていますし
鎧や武器によって力を手に入れるのは人間ならでは、というのが
大本にあるのかもしれません。

ところで90年代までは本作も含めて
織田信長が大ボス、黒幕的に扱われる作品が結構ありましたが
逆に00年代に入ってからは「既存の概念をぶち壊してくれるカリスマ」みたいに
味方側で扱われることが多くなった気がしますね。
このあたりは世相も含めて考えてみると面白い気がします。

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