「孤独のグルメ」風な感じで。
午後二時半……とにかく腹が減っていた。
久々の東京であるが早出だったために朝食はカロリーメイト2本と牛乳のみ。
そして当然昼食はまだという状況だ。腹が減るのも当然だ。
地元では見たことのないようなラーメン屋や中華料理屋が空きっ腹を刺激する。
だがここで誘惑に負けるわけにはいかない。
今日の昼食は前々から神保町「エチオピア」のカレーにしよう、と決めているのだ。
カレー好きとしては一度は行ってみたい有名店である。
今日のためにしっかりとネットで調べてきたほどだ。
この機会を逃せば次はいつになるか分からないぞ、と他店の誘いを振り切りつつ歩く。
そして到着。
ちなみに靖国通りと白山通りを間違えたために
炎天下の中を歩き回る羽目になってしまった。方向音痴が恨めしい。
時間はすでに三時を回っていた。
ようやく見つけた「エチオピア」の文字に安堵しつつ店内に入り
券売機の前でしばし考え込む。
野菜を食べたいから…ここは野菜カリーか。
しかし一番人気はチキンカリーだという。
悩んでいると「チキン野菜カリー」の文字が目に入ってくる。
チキン野菜カリー、なるほどそういうのもあるのか。これはいい。これに決まりだ。
しかし1230円…結構いい値段である。
更に180円でサラダ、220円でコーヒーをつけられるようだが
それでは1500円を超えてしまう。
さすがに昼食でそれは少々高いな、と思い諦めることにする。
今日はチキン野菜カリーとのタイマン勝負と行こう。
それにしてもすごい、時刻は三時過ぎだというのに店内は満員だ。
この時間でこの混み具合はちょっと信じられん。頭がくらっとする。
まさか神保町の人たちにとってはこの時間にカレーが普通なのか。おやつ感覚か。
と、少々失礼なことを思いつつ席に座り食券を渡す。
「エチオピア」のカレーは0倍から70倍まで辛さを選ぶことができ、
0倍=中辛程度の辛さということらしい。
これは「うちのカレーには甘口なんか無いぜ」という暗黙のメッセージなのだろう。
なかなかの潔さだ。
そしてここでまた悩む。辛さはカレーのキモと言っても過言ではない。
しかしネットでの評価を見てきたのだが「2~3倍でも辛すぎる」「5倍くらいがちょうどいい」
「20倍が最高」「30倍以降は全部同じ気がする」などなど感想はまちまちであった。
そもそも辛さの感じ方など人によって違うに決まっている。
悩んだ末に自分の信じる自分を信じて10倍を頼むことにする。
これなら食べられないことはないだろう。たぶん。
注文を終えると無料サービスだというじゃがバターが運ばれてくる。
どうやら待ち時間が長いらしくこういったサービスをしてくれるらしいが
食が細い自分としては下手に食べるとカレーが食べられなくなってしまう危険性もある。
落ち着け落ち着け…と自分自身に言い聞かせながら半分ほど食べる。こんなものだろう。
残りはカレーに入れて楽しむことにする。
ちなみにじゃがバターと先述したがどう見てもマーガリンだった。バター高いしね。
そして待つこと約二十分、待望のカレーが目の前に運ばれてくる。
インドカレー独特のスパイシーな香りに食欲がそそられる。
まずは一口。うん…これは旨い。
スパイスがダマになっているのは賛否両論あるだろうが
一口ごとに味が変わり個人的には面白いところだ。
辛さの選び方も10倍で正解だった。一口目はやや物足りないが
食べ進めているうちにちょうどいい辛さになる、という理想的な辛さだ。これはいい。
そして何より具が旨い。量も多くしっかりと煮込まれ柔らかい。鶏肉がスプーンで切れる。
キャベツ、玉ネギ、茄子、ピーマン、シメジ、マイタケ、豆、ミニトマト、チキン。
どれもかなりの量だ。キノコが二種類も入ってるのにはびっくりだ。
定番のジャガイモやニンジンが入っていないのが特徴だろうか。
「ジャガイモがかぶってしまった」ネタが出来ないのを少々残念に思う。
……しかし暑い。そして熱い。深皿ということもあってなかなか冷めない。
水はセルフサービスなのだが完全に氷が溶けており、
ぬるい水がさらに暑さに拍車をかける。
そして食べ進めるうちに新たな問題が。
……かなり量が多いのだ。正直半分ほど食べたところで満腹だ。
ライス少なめで、と頼めばよかったか。
ジャガイモは遠慮すればよかったか。
それともメニューにハーフカレーなどはなかっただろうか。ちゃんと見ればよかった。
最近胃が縮んだのか小食気味な自分にとってこのライスの量はかなりきつい。
いろいろと後悔しながら食べ進める。
ああ旨い。確かに旨い。しかし襲い来る満腹感はどうにもならん。
でも旨い。そして何だかんだで完食。
うぅ、もう食えない…と思いつつゆっくりと店を出る。
腹ごなしに古本屋でも回るか。これなら夜は抜きでいいだろう。
そんなことを思いつつ神保町を歩く。
自分にこの量は少々つらいがいいカレーだった。
各種スパイスのおかげか余計な老廃物が全部出たような爽快感すらある。
得体の知れない奇妙な満足感を味わっていた。ごちそうさまでした。
完
あ、通販とかあるのね。