永井豪 / 細野不二彦 「デビルマン外伝 -人間戦記-」 全1巻 感想
『デビルマン』の50周年を記念して月刊ヤングマガジン誌で集中連載された
細野不二彦先生による『デビルマン外伝 -人間戦記-』の単行本が発売。
漫画『デビルマン』のサイドストーリーはこれまでにも多くの作品が発表されていますが
今回は『人間戦記』ということでゼノンの出現からクライマックスまでを
「最後の人間」となるドス六をはじめとした不良メンバーの視点で描いていく展開。
原作の後半から物語が始まることもあって
悪魔をネタとした風俗店を経営するチンピラ、
ライバルを蹴落とすために悪魔に仕立て上げる受験生など
人間の心の弱さ、怖さにスポットを当てたシチュエーションが多いんですが
不良メンバーたちの本名やそれぞれの家庭環境が描かれるなど
原作にはなかったキャラのバックボーンが明かされたのが一番の特色ですね。
木刀政に姉がいたりメリケン錠が実はいいところのお坊っちゃんだったりするのは
いかにもそれっぽいですし
50年目の後付け設定でありながら納得できるものになっているのは
非常に巧いところだと思います。
また「ドス六たちはなぜあれほどまでに不動を慕い続け、牧村家を守ろうとしたのか」は
原作では尺の都合もあって流されてしまっていた感じもありましたが
本作では「家庭に問題を抱えた不良たちが牧村家で温かく受け入れられ、
牧村家が彼らにとっては唯一の寄る辺となる」構図となっており
しっかりとそのあたりに理由付けをしてくれた印象もあります。
それと本作の第4話はデビルマンとなった少年、ツトムを
ドス六たちが軍団に迎え入れようと奔走する話なんですが
恐らくこのツトム君は原作で数コマだけ言及された「デビルマンの坊や」ですね。
「明がテレパシーで話をつけている」「周りにバレないよう母親が必死に隠している」
などの描写はそのまま本作にもありますし
なるほどここを膨らませたかあ、と思わず唸ってしまうファンサービスです。
デビルマン軍団集めはミーコなどにスポットが当たることが多いので意外性もあります。
そして本作のもう一つの特色が「天使たちの暗躍」という部分。
原作の最後の最後で姿を見せた天使たち、神々の軍団は
その後の派生作品などでも黒幕でありながら表にはほとんど出てこない
「時が来るまでは単なる傍観者」みたいな立ち位置になっていたんですが
本作では「ドス六の心の中を覗いてデビルマンについて知ろうとする」
「ドス六やメリケン錠の姿を偽って明をそそのかす」など積極的に行動に出ており
デーモンたちとは別の形で人類の滅亡を促す存在になっているんですね。
「原作のあのシーンのドス六が偽者だった……」というのはかなり大胆な解釈ですが
あそこでのドス六の伝言が「明が牧村家を留守にすること」に繋がってゆくのは確かですし
神の軍団をしっかりと「デーモンとデビルマンの漁夫の利を狙う存在」として描いているのは
本作の特徴的な部分だと思います。
そんなこんなでラストは10年後、そして20年後の最終戦争まで時間は飛んで
ドス六の前に再び天使が姿を見せエンディングとなる展開。
不動明の正体を知った最初の人間であるドス六を第一使徒になぞらえる……というのは
ちょっと大袈裟すぎる気もする反面
もはや古典的名作となった『デビルマン』という名の神話に
新たな1ページが加わった、みたいな感じもあるので個人的には納得の展開です。
というわけで令和の時代に新たな視点で綴られた『デビルマン外伝 -人間戦記-』。
ドス六たち不良メンバーが主役級の活躍をする外伝作品、と言うと
個人的には衣谷遊先生の『AMON デビルマン黙示録』を思い出すところですが
蓋を開けてみればしっかりと差別化がされていた印象ですね。
あちらはドス六がデビルマン化したり
過去のシレーヌ一族の物語に物語の尺の半分近くを費やしていたり
雷沼教授を裏で操っていたオリジナルキャラが登場したりと
アモンの設定も含めて独自の解釈がされている部分が多かったのに対し
こちらの『人間戦記』はあくまでも原作の隙間を埋める、
原作に寄り添った作品になっていた印象。
月刊ヤングマガジン誌での掲載が衣谷先生の『バイオレンスジャック20XX』と
入れ替わる形になっていたこともあり
このあたりの差異化は意識してのものなんじゃないでしょうか。
『AMON』での「自身がデビルマンとなることで初めて明の苦しみを理解するドス六」は
すごい好きなシーンなんですが『人間戦記』とはコンセプトからして真逆になりますね。
あ、それと本作は最初から短期集中連載で予定されていたとは思うんですが
不良メンバーのうちカミソリ鉄、チェーン万次郎の2人については
主役となるエピソードがなくほとんど賑やかしだけの存在、
いつの間にか死んでいたことが終盤に語られるのみ、という不自然さもあったので
本来は彼らのエピソードも含めてあと3話くらいは構想があったんじゃないかと思いますね。
それくらいならページ数が増えても単行本1冊に収まりますし。
あの2人は本当に影が薄いんですよね……。
ドス六が恵まれすぎとも言いますが……。
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