小説 「ROCKMAN X THE NOVEL IRREGULARS REPORT」 感想

2Dアクションゲームの金字塔『ロックマンX』シリーズの初の小説化となる
「ROCKMAN X THE NOVEL IRREGULARS REPORT」が発売。

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いやーもう感無量ですねこれ。
実は自分は小学生の頃からロックマンXの小説化を熱望しており
いろんなライトノベルのアンケートで「ノベライズしてほしい作品」の項目に
『ロックマンX』と書き続けていたんですよ。
それがまさか2017年になって報われるとは思ってもみませんでした。

確か10年ほど前に痺れを切らして「もういい自分で書く!」とばかりに
・無印シリーズとXシリーズの間を繋ぐストーリー
・X5のリメイクストーリー、ワイリーとの決着
・X8の続き、アクセルの離反から妖精戦争に繋がる物語
・コマンドミッション2
などなどのストーリーを妄想して
何本かのシナリオや小説っぽいものをでっち上げた記憶があるんですが
あれどこに行っちゃったんだっけかなあ……。

そんなわけで今回の小説版ロックマンXですが
表紙イラストからも分かるように原作ゲームの直接のノベライズではなく
コミックボンボンで連載された岩本佳浩氏による漫画版、
「通称:岩本X」がベースになっている、という触れ込み。

確かにゼロとイーグリードの悪友的な関係、
「ROCKMAN」と呼ばれる伝説のレプリロイドの設定などは
岩本Xのものを踏襲しているんですが
マルスやティル、マーティなどの漫画版オリジナルキャラたちは登場せず。
逆に「X2」以降の登場だったケイン博士が早々に出てきたり
シグマの反乱の目的に「進化」というキーワードが織り込まれていたりと
原作ゲームやPSPリメイクの「イレギュラーハンターX」の要素も入っているので
「岩本Xの小説化」というよりは
いろんな媒体の折衷案と独自の解釈によって生まれた
「小説版としての新たなロックマンX」という位置づけのほうが
合っているような気がするなあ、と。

そして特徴的なのはエックスやゼロ、VAVA、ペンギーゴなどなど
複数の視点で書かれる一人称小説の体裁を取っているところ。
……えーとただこれは正直小説として失敗だったと思います。
視点が次々に入れ替わるのでシーンごとの繋がり、ストーリーの流れが
完全にぶつ切れになっちゃっているんですね。
しかも上記の4人は全て一人称が「オレ」(エックスのみ「おれ」)なんですよ。
これを一人称で書き分けようっていうのがそもそも無理があります。
一人称小説は書きやすそうに見えて制限が多い手法だと思うんですが
その難しい部分、悪い部分がモロに出ちゃってる文章だなあ、と。

また著者の轟つばさ氏の文章の癖だと思うんですが
場面転換の仕方が妙にひねくれているというか
シーンを1つ2つわざと飛ばして「独白→回想でシーンを補完」という流れが多くて
これがまた分かりにくいんですよ。

もちろん演出としてそういう部分があってもいいんですが
ほとんどの場面転換がそんな感じ、
しかもそのたびに語り手が入れ替わるから非常に混乱を招くんですよ。
エックスのパワーアップ、というゲーム的な盛り上がりも
回想で1、2行触れるだけなので全くカタルシスを感じられないですし
悪い意味で「原作付きのノベライズ」っぽいんですね。
ぶつ切りにしたシーンを並べただけなので
肝心のストーリーの流れが頭に入ってこない、という。うーん。

とは言え特殊武器チャージを1回きりにしたことで
少年漫画に立ち返ったような総力戦の最終決戦っぽさを見せてくれたり、といった
面白いアレンジも多く、中でも
・シグマの反乱の目的に「エックスへの憎悪」という要素を持ち込んだこと
・エックスの特異性は「悩む」ことではなく「悩み続けられる」こと
の二点はこれまでゲームや漫画で語られてきたものを更に深化させた設定で
かなり練られている部分だなあ、と感じました。

それと「第4章 禁断の地」は非常に良く出来ていますね。
4章はケイン博士の回想、いわゆる過去話で
本筋とは直接関係ないサイドストーリーなんですが
『イレギュラーハンターX』でのライト博士の独白がほぼそのまま引用されていたり
『X4』で明らかになった暴走ゼロと隊長時代のシグマの戦いがあったりと
ファンならニヤリと出来る要素を随所に挟みつつ
シリーズのミッシングリンクを埋めるエピソードとして巧くまとめられています。
ぶっちゃけ本書の読者のほとんどは
ゲームはもちろんプレイ済、岩本Xも読んでいるファンだと思うので
4章のような「ゲームの行間を埋めるような短編群」に特化した内容にしちゃっても
良かったんじゃないかなあ、と思ったり。
こういう本は思いっきりコア層向けにしちゃっていいと思うんですよ。はい。

そんなわけで全体的に文章がアレだったり
長年シリーズを追いかけてきたファンの視点で見ると
「あれがない、これがおかしい」と物足りない部分もいくつかありますが
何だかんだで「あのロックマンXが小説になった!」というだけで
個人的にはもう許せてしまうところもあったりします。
本当に待ち望んでいた小説化ですから。

そして後書きによれば続巻の構想もあるとのこと。
「X2」ではサーゲスの登場やシグマウイルスの存在など
シリーズの根幹に関わる謎がどんどん出てくるし
もし続きが出るならそのあたりにも触れてくれるのかなあ、と。

  

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