永井豪先生の画業50周年を記念して2017年に上下巻で発売された短編集『豪画沙』。
いろいろあって発売してから数年後の感想記事になってしまいましたが
この短編集の売りは何と言っても「全収録作が初単行本化」という大盤振る舞い。
永井豪先生のような有名作を多く排出している漫画家さんになると
短編集はどうしても再録ばっかりの「傑作選」みたいになってしまいがちなので
本書の「初単行本化のみ!」というコンセプトは非常にありがたいですね。

特に各巻の表紙にもなっている『悪魔騎士』と『バイオレンスジャック 戦国魔人伝』は
まさに待ちに待った単行本化。
『悪魔騎士』は鎧を着たアモンたちの姿など
『デビルマンサーガ』のプロトタイプ(?)としても押さえておきたい話ですし
『戦国魔人伝』は『新ジャック』の単行本が出た時にも収録されず
「あれが最後のチャンスだと思ってたのに」と半ば諦めていただけに
今回こうして収録されたのが本当に嬉しいです。

そして収録作の多くが2000年以降の作品、というのも注目すべきところ。
2017年にもなって単行本未収録作品だけの短編集を2冊も出せる、
しかも多くが2000年代以降の作品、というのが
現在進行形で精力的に活動を続けている永井豪先生のすごさ、多作さを感じますね。
本短編集のタイトルを大きな数の単位「恒河沙」になぞらえた「豪画沙」としたのも
そのあたりの理由からでしょうか。

そんなわけで一つ一つの作品の感想を簡単に書いていこうと思います。
(初出年は巻末の記載を参考)


○悪魔騎士 Demon Knight(2007~2009)
『デビルマン』の過去の世界を舞台にデーモンたちの誕生を描いた3話構成の作品。
3話目では明や了も登場し『デビルマン』の1エピソードっぽい雰囲気になっているものの
・鎧を着たアモンやシレーヌが隊長と副官となっている設定
・「それはサーガの始まり」という第1話での文言
などどちらかと言えば『デビルマンサーガ』のプロトタイプ、のほうが近い印象。
「本作のアモンたちがデーモンとなった世界→デビルマン」
「融合せず鎧を着たまま神々に反逆した世界→デビルマンサーガ」と
捉えることも出来るのかなあ、と。
しかしどこの世界でもやっぱり明(アモン)を戦いに導くのは了(サタン)なんですね。


○娘中天(2004)
『後漢書』の秘術によってお調子者の男性が過去を省みながら
自分を本当に思ってくれていた女性に思いを馳せる、というストーリー。
20Pほどの短編にもかかわらず綺麗にまとまっており
テーマが普遍的なものであることを考えても
導入部のちょっとエッチな描写さえなければ少年向け作品としても成り立つ気がしますね。
作品全体に漂う「すこしふしぎ」な雰囲気はドラえもん的でもありますが
エッチな描写によってそうならないのは永井豪作品っぽい感じです。


○シレーヌちゃん(2012)
シレーヌや明、了といった『デビルマン』の面々をとにかく下品に、
とにかくくだらなくしたギャグ作品。
方向性は雑誌「デビ×ハニ」に掲載されていた四コマ漫画「デビハニ4コマ劇場」に近いけど
あちらを遥かに越えるくだらなさ(誉め言葉)。
いやこれはもう原作者の永井豪先生だからこそ出来ることですね。
第1話の弁当と称して卵を産むシーンなんてほんと
「こいつはひでぇや!(誉め言葉)」って言いたくなりますよ。
家族がいるのに家の表札が「シレーヌちゃん」だったり
もう全編突っ込みどころしかなくて最高ですよ。ああひどい(誉め言葉)。
でもこれ許せない人は絶対許せないんだろうなあ、とも思ってしまったり。


○霊界ドアー(2009)
療養のために別荘である年代物の屋敷で過ごすことになった主人公が怪異と出会う物語。
次に収録されている『ヴァンパイアコップ』なども含めて
永井豪先生のこの手の妖怪・異形モノは主人公が男性であることが多いんですが
本作は主人公やその親友、物語の解決役として登場する雪女など
主要キャラがほぼ女性で構成されているのが珍しいところ。
ここで主人公が男性だとアクション要素が増えるんですが
今回はその代わりに「あら^~」というか「キマシタワー」というか
猟奇ミステリー、エロホラーなどの要素が全編に漂っているのが印象的。
正直こういう雰囲気は大好きなのでこの短編集の中で一番好きな作品ですね。はい。


○ヴァンパイアコップ(1999)
ドラッグ犯罪がはびこる近未来の東京を舞台に
刑事の男性とヴァンパイアの女性が活躍するバイオレンス・アクション。
本作『ヴァンパイアコップ』みたいな
刑事や探偵、ジャーナリストの男性が怪異を調査する上で
人間じゃない女性とバディを組む、というシチュエーションは
2000年前後の永井豪先生の作品ではけっこう見かける感じがしますね。
『デビルマンレディー』の早見刑事なんかもその系譜かなあ、と。
中華系移民が多い近未来の東京、というのは作中でも言われているように
完全にブレードランナー的な世界観ですが
舞台となっている2009年が既に10年以上昔になってしまっているのに時代を感じます。
ところで永井豪先生の作品って未来の東京を「TOKYO」と表記するのが多いですね。
最新作『デビルマンサーガ』でもそうですし。


○ハレンチママさん(1985)
タイトル通りに「何をしてもハレンチになってしまうママさん」の一日を描いた掌編作品。
『ハレンチ学園』で一世を風靡した永井豪先生なので
「ハレンチ」をテーマに一本描いてください、みたいな感じのオファーが
あったんじゃないかと思いますね。
初出が1985年と本短編集の中では一番古いので
絵柄的にも作風的にも他の収録作とはちょっと違う雰囲気の作品な気がします。


下巻の感想はこちら。
永井豪 「幻選短編集 豪画沙」 下巻 感想
https://tktkgetter.com/blog-entry-1436.html

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