山田芳裕「度胸星」 文庫版全3巻 感想

時は21世紀。
アポロ計画による月面到達から50年の時を経て、
人類は遂に火星の大地へと降り立った。
だが、突如途絶える探査機からの交信。
超立方体の姿を持ち、Q方向に存在する高次元存在テセラックとの接触。
人類の更なる飛躍のため、そして火星に残された飛行士たちを救うため、
アメリカは「真の勇者」たり得る次なる宇宙飛行士を全世界から募ることとする。
そして日本。集まった飛行士志願者1万名の中には、
火星へ思いを馳せて亡くなった父を持つ〝三河度胸〟の姿があった……。

文庫で1000ページ弱の中編にも関わらず一気に読んでしまったこの「度胸星」。
ページの割合としては飛行士を目指す主人公、
三河度胸たちの訓練部分が大部分を占めているんだけど、
一番魅力的なのはもちろん火星で遭遇した超存在テセラック。
圧倒的な画力と一つのシーンを多角的に見せる独特のコマ割りによって
紙に描かれた漫画でありながらテセラックの力を「立体/錯覚」的に感じられる。
SF好きにはたまらないわこれ。

作品自体が打ち切りになってしまったということもあり
このテセラックの正体、あるいは目的を知りたいという意見が結構あるみたいだけど
個人的にはそのあたりには触れないでほしいなあ、というのが本音。
なぜならテセラックは人間にとって理解出来ないからこそ
「高次元の存在」として完成してる
わけで。
例えどんな形でありそのあたりを描いちゃうと一気に陳腐になっちゃいそうな気がしてしまう。

火星で未知の高次元存在と接触、というと
「度胸星」の連載とほぼ同時期に公開された映画「ミッション・トゥ・マーズ」を思い出すけど
あっちは結局「2001年~」みたいに観念的なラストになっちゃったし、
変にキャラだけが理解して「そうか分かったぞ」みたいなのはあんまり見たくない。

というわけでテセラックの正体は謎のままがいいんだけど
度胸たちが無事に地球に帰ってくる続編、あるいは完全版はぜひ読んでみたい。
「死ぬ度胸もない」と言い放ち「必ず戻ってくる」と宣言し、
「無事に帰ってくるまでが仕事だ」というのが信念の両親に育てられた
三河度胸を主人公としている限り、
「度胸星」は度胸たちが帰ってくるまで終わりではない(終わらせてはいけない)
作品ではないだろうか。

  

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