2006年に1巻が出て以来音沙汰のなかった石ノ森章太郎氏/小野寺丈氏の小説
「サイボーグ009 完結編 2012 009 conclusion GOD’S WAR」が
文庫版となってついに最終巻までの刊行が決定。
当時のハードカバー版の時は大きな新聞広告を出すなどかなり力を入れており
続報がない間は「これ採算取れなかったんじゃないかな」と
尻切れのまま終わってしまうことも覚悟していたんだけど
今年になって映画公開やら漫画やら009周りでいろんな動きがあり小説版も復活。
いやあ本当に良かった。長年待ち望んだ完結編がこの手に!
そんなわけで今回の小説版第1巻(First)、
基本的には以前に刊行されたハードカバー版と同じなんだけど
「親王」→「親玉」
(ハードカバー版P96-5行目/文庫版P109-1行目)
「神々の戦い編」→「神々との闘い編」
(ハードカバー版P246-8行目/文庫版P286-8行目)
のような誤字脱字の訂正や
「月の半分は眠りにつき、残りの半分の日数は目覚め続けている」→
「月の半分は眠り続け、残りの半分の日数は目覚めている」
(ハードカバー版P33-1行目/文庫版P36-2行目)
「すると、その子鼠は歩行不能になり~」→
「しかし数歩も行かぬうちに突然、その子鼠は歩行不能になり~」
(ハードカバー版P201-5行目/文庫版P233-12行目)
のように分かりやすい表現への修正や加筆が全編にわたって入っている印象。
特に文章表現の変更は結構多い気がする。
また上の画像(左がハードカバー版、右が今回の文庫版)のような
「?」「!」のあとに一文字開ける「小説の約束事」に則った訂正も見られるけど
小野寺氏は「石ノ森氏の原文そのままの収録」を第一に考えているみたいだし
このあたりは統一してないところもある感じ。
実際に2巻の009の章では「100%」「一○○%」という表記ゆれが存在しているし。
それにしても何だか感想というか校正してるみたいになってしまった。
本当はもうちょっと細かく比較してみたいんだけど
ハードカバー版と文庫版では一行の文字数が違うせいで比べにくいのが難。
↓以下、簡単な各章ごとの感想。
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○プロローグ/エピローグ
病床の石ノ森氏の前にギルモア博士が現れるパート。
完結編へと連なる「天使編」「神々との戦い編」の紹介など
簡単な「サイボーグ009」という作品や登場人物の紹介も兼ねている感じ。
それにしても2011年ももう過去の話か……。
○001 天使の羽音
ギルモア邸で暮らすイワンに異変が起き、
未来に起こる世界規模の惨劇と「光の者たち」について
ギルモア博士に語るエピソード。
赤ん坊であり動きのないイワンが主人公ということでページ数も少なく
抽象的な内容も相まってこちらもプロローグの一編という印象。
○002 摩天楼の底
ルビや皮肉の多いジェットの一人称で書かれており
探偵事務所を営むジェットの前に謎の美女エルシーがやって来るという
導入部の雰囲気など全体的にハードボイルド感溢れるエピソード。
「ブラック・ゴースト」の残党と思しき者たちが登場し
「神」も超存在ではなく人に生み出されたものとして描かれているなど
完結編だけではなく単純に「サイボーグ009」の一短編としても楽しめる感じ。
むしろそっちの側面のほうが強いかもしれない。
○003 ありえざるもの
フランソワーズを慕う青年、アランが
ルーヴル博物館のオーパーツを巡る騒動に巻き込まれる一編。
戦闘用の能力をあまり持っていない003が主人公ということで
ストーリーとしてはあまり動きがなく謎ばっかり残ってしまうものなんだけど
「神々≒天使」がフランソワーズに「仲間になれ」と言ったのが印象的。
「サイボーグ戦士たちを仲間に招き入れようとする」というのは
「天使編」の天使たちなんかとは明らかに異なっているなあ、と。
またフランソワーズを殺そうとする者たちと助けようとする者たちが登場するなど
『得体の知れない者たちも一枚岩ではない』という伏線も気になるところ。
○004 妖精街道
かつて失った恋人ヒルダの面影を持つ女性、イエレとの交流を描いた一編。
ケルト神話の神、クロウが登場するなど003の話に続いて
古代の神話や伝説が敵の正体と関わっていることが明らかになり
敵の壮大さを強調している感じ。
「勝者が生贄になる~」の一連の流れは寓話的というか
昔話なんかにありそうな後味の悪さがあるね。
イエレの登場シーンだけで「ああこれ悲恋で終わるな」と思えるのは004ならでは。