永井豪/小沢高広(うめ)/長田馨 『マジンガーZ インターバルピース』 感想
映画『マジンガーZ / INFINITY』の公開前に月刊ヤングマガジン誌で連載され
TV版と映画の間の空白の10年間が綴られた
『マジンガーZ インターバルピース』の単行本(2017年12月発売)。
月刊ヤングマガジン誌でのダイナミックプロ作品というと
以前に連載されたTEAM MOON氏の『デビルマン対闇の帝王』を思い出しますが
今回の漫画を手掛けた長田馨氏の緻密で丁寧な絵柄も負けず劣らず魅力的。
ヤンマガ誌はダイナミック作品にあまり関わっていない作家さんを
選んでくれているのが新鮮味もあって嬉しいですね。
そんなわけでこちらの『マジンガーZ インターバルピース』。
話ごとにスポットが当たるキャラが異なる群像劇・短編連作的な作品なので
1話ずつ感想を書いていきたいと思います。
○第1話
というわけで第1話は我らが兜甲児を中心に
設定のみで尻切れになってしまったヘルの五大軍団の壊滅や
ミケーネの残党狩りなどが描かれるエピソード。
とは言えマジンガーZを駆って大活躍、とは行かず全体の雰囲気は淡々としたもので
「敵がいたからマジンガーZのパイロット≒英雄でいられたという現実」
「打倒マジンガーという使命に邁進することが出来る機械獣たちへの憐憫と羨望」
「テロリストのAIによって機械獣たちの矜持が踏みにじられたことに対する怒り」
などなど第1話にして本作の方向性を決定付けたというか
「大人にならざるを得なくなってしまった兜甲児」をこれでもかと見せつける展開。
うーん重い。
このあたりの悩みや迷いは映画本編のヘルとの会話で改めて指摘されることになりますね。
○第2話
第2話はヒロイン、さやかさんを中心に
映画でのそれぞれの立場(弓教授=日本首相、さやか=所長)や
世界観(光子力エネルギーによるインフラの整備や新都市)が
どのように築かれていったのか、を描くエピソード。
食事をしながら停電事件に遠隔操作で対処する、という
ともすれば地味になりそうなシチュエーションながら
肉料理にかぶりつくエキセントリックなさやかさんなど見せ場もあるのが巧いところですね。
第1話のテーマが「大人になり切れない悩み」とするならば
こちらは「誰かのために大人にならなければならない辛さ」といったところでしょうか。
○第3話
第3話は鉄也&ジュンのペアを主人公に
彼らのプロポーズから新居探しまでを描くエピソード。
デモを起こそうとするテロリストや光子力への依存に反対する住民など
1~2話との繋がりを感じさせる描写もありますが
基本的には二人の不器用な恋愛話、といった感じ。
男性がナチュラルに車道側を歩いてくれるカップルを羨ましそうに見るジュンに
後々になってから弁明したりと
鉄也さんの言葉足らずの不器用さが逆に微笑ましくも感じますね。
「大人になると効率や理屈を第一に考えてしまうけど
結局は子供の頃に夢見ていたものに戻ることになる」という結論は
甲児やさやかさんよりも一足先に目指す場所にたどり着いた、という
ハッピーエンド感もあります。
○第4話
第4話はラーメン屋を構えるようになったボスを主人公に
彼が自分を慕うヌケとムチャを再び従えるようになるまでのエピソード。
本エピソードでも大人になってしまったがゆえの遠慮や
それによる苦悩というものが描かれることになるんですが
ヌケとムチャの危機に対し大人としての立場があるがゆえに
最後までマジンガーZを出せなかった甲児とさやかに対し
「互いに心配をかけないように何も言わず干渉しないのが大人じゃない」
とボロットを駆り出すボスの格好良さが目を引くところ。
ボスは映画本編でも甲児の親友、ヌケとムチャの親分、コメディリリーフと
「変わらないボス」としての安心感、安定感を見せてくれていましたが
本エピソードがあると映画本編のボスたちに更に深みが出るというか
甲児たちが持つ大人になったことの悩みを既に乗り越えていたことが分かりますね。
映画での彼らは変わっていなかったのではなく
本当に大切なものに立ち返ることが出来ていた、といった感じでしょうか。
「自分の発言の影響力を理解しなさい」とさやかさんに説教された甲児が
ラストではその影響力を逆手に取ってボスにご祝儀を送る演出がニクいですね。
起承転結がはっきりしていて非常に好きなエピソードです。
○第5話、第6話
前後編で綴られる最終エピソードの第5話、第6話は
マジンガーZの暴発の危機に再びダブルマジンガーが並び立つことになる
甲児と鉄也を主人公としたエピソード。
映画本編でリサとの二人乗りだったことを踏まえての
「パイルダーの操縦席後ろにゆとりがある」発言や
ジェットパイルダーではなくホバーパイルダーが使われたことの説明
(グレートブースターと同じく外付け兵器扱いで非承認だったんですね)の他、
政界入りをした弓教授、立食で羽目を外すヌケとムチャをたしなめるボスなど
これまでのエピソードを踏まえた描写もあり
『インターバルピース』の集大成の雰囲気もありますね。
また全身武器のグレートと違う「ブーメランとして取り外せないZの放熱版」を
「それも含めてマジンガーZのブラックボックス」としたのは面白い視点だなあ、と。
そしてZの暴走事故を抑えてハッピーエンド、とは簡単に行かず
暗雲の立ちこめる中でドクター・ヘルの関与などを訝るさやかさんの1コマでエンディング。
このあたりのマジンガーのブラックボックスやヘルの関与については
ちょっと後味の悪い形だったので映画本編で明かされるのかと思っていましたが
特に具体的な言及などはありませんでしたね。
(後に刊行された小説版で言及あり)
というわけでこちらの『インターバルピース』。
WEB連載の『アルターイグニッション』と合わせて
映画公開直前での単行本発売となりましたが
映画本編をフォローするようなエピソードも多かったので
上映前に一読、上映後に一読と一粒で二度美味しい単行本、といった感じですね。
鉄也&ジュンのエピソードやボスのエピソードは
映画を観てから読み返すとより印象が強くなりますし
『INFINITY』が好きならしっかり押さえておきたい作品だと思います。はい。
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