グレッグ・イーガン 「しあわせの理由」 感想

「宇宙消失」「順列都市」などの長編で有名なイーガンの短編集。
印象に残ったのは
・適切な愛
・しあわせの理由
の二つ。「ボーダー・ガード」の量子サッカーなんかも
字面には惹かれたんだけど内容としては何だかなあ、な気分に。

【適切な愛】
交通事故で肉体がほぼ死滅してしまった夫を蘇らせるため、
数年間自分の体内で夫を生かし続ける妻の話。
夫に対する感情が日々変化していく妻の描写がメインになるんだろうけど
最初の設定がインパクトありすきて全部吹っ飛んでしまった。
かなりの超設定ながら実際にあり有り得そうなリアリティを含有しており
なんだか「ブラック・ジャック」にありそうな話だなあ、と思ったり。

【しあわせの理由】
表題作。メディカル的要因で感情が支配されるという点では
テーマとしては上記の「適切な愛」と同じになるんだろうか。
手術によって世界の見方が変わりそれによって人生が左右されていく、という流れは
少し「アルジャーノン~」っぽいとも思ったけど
「アルジャーノン」ほどには他者との交流の描写がないし
なんとも形容しがたい話。
魅力的な設定や登場する技術などがあくまでも「舞台装置」であり、
本筋-延々と独白で綴られてゆく主人公の内面-には直接的には関係無く、
乱暴に言ってしまえば「壮大な自己完結」にもなりかねないストーリー展開は
解説文で「哲学的」と評されるように
良くも悪くも日本の純文学的な感じだなあ、と。

…うーん。グレッグ・イーガンには熱狂的なファンが多いから
こういうことは言っていいのか悩むけどあんまり好きじゃないんだよなあイーガン。
「人間の感情は人為的にコントロールされ得る」という前提に
登場人物への感情移入を意図的に拒んでいるような展開。
そうした基盤そのものに嫌悪感を抱く人は結構いるんじゃないだろうか。
「宇宙消失」の忠誠モッドによる洗脳なども含めて、
イーガン小説では感情=単なる電気信号であり科学技術の方が上位である、
という姿勢が一貫しててそのあたりが生理的にきついというかなんというか。
神でもオカルトでも何でも来い! 何でもありで別にイーガン!
な自分にはちょっとガチガチすぎる気も。
作中のロジックを「すごい論理パズルだ」と捉えるか
「何だただの屁理屈じゃん」と捉えるかでも評価はかなり変わってくる感じ。

ということで解説文の文系理系うんぬんも含めて
いろいろ物議を醸し出しそうな話だよね、
と当たり障りのないことを言って締めることにしよう。うん。

  

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